怖かった日曜が終わりました。本当に怖かった。不安で寂しくて、おろおろしてしまいました。遊びに行っても帰ってきたら寂しくて絶対泣くと思って、誘いを断って友人に電話して相手してもらいました(手のかかる…)
こんなに毎日泣いてるのに、ギアスに出会わなければよかったとは思わないです。この2年間、一度も思ったことがない。
最近色々なサイトさんを巡っていて、様々なことに気付いてます。あのアニメ、いろんな仕掛けがしてあって本当に面白いと思います。心音とか、タイトルとか、一度見ただけじゃ気付かないことだらけ。スザクのお墓の文章も泣いた。落ち着いたらいつか見返したい!けど、最終回すらまだ見返せない私には遠い話です(苦笑)
ニコのスザルル動画まずい。涙腺崩壊です。でも見る。泣くと分かってるのにギアスの音楽も聴く。今日は天野月子さんを聴いてました。スザルルだよ…。今日のSSのBGMは天野さんの「花冠」
空を衝くほどの歓声。
止むことを知らない雨のようだ。
これほど大きな声で名を呼ばれたのは初めてだなとぼんやり思った。
掲げた右手を振り下ろせば、波が引くように歓声が消えていく。
「我に捧げよ!剣を!忠誠を!!」
ゼロですっかり板についただろう、大仰な立ち居振る舞い。まるで喜劇の役者のようだ。
振り返らずに壇上を後にする。数歩後からスザクがついてきているのが分かった。また苦い顔をしているんだろう。
「辛いか」
前を見据えたまま問えば、間髪入れずに返事が返る。
「愚問だよ、ルルーシュ」
硬い声だが、揺るぎはない。そう、答えはそれでいい。
「行くぞ、我が騎士スザク」
「イエス、ユア・マジェスティ」
袖を通した衣服は驚くほど柔らかく、すぐに肌に馴染んだ。
素人目にも一目で一級品と分かるだろうそれは、8年前まですぐ身近にあったものだった。襟を正し、顔を上げると、ふんだんに装飾の施された白い衣服に身を包んだ自分の姿が映った。
姿見に映ったそれは、確かに自分自身であるはずなのに、笑えるほどの違和感がある。
「ブリタニアの皇帝、か」
ふっと唇を歪め、鏡に手を伸ばす。触れた先は当然冷たい。
「ルルーシュ」
扉が開く音に振り返れば、同じく正装を纏ったスザクが入ってくるのが見えた。
「おかしくはないかな」
腰の剣の位置を調節しながら、「君はさすがだね」と僅かに微笑む。
「なんていうか、オーラとか…そんなのが滲み出てる感じ。やっぱり君は皇子様だったんだね」
妙にしみじみと言うスザクに、思わず吹き出す。
「何だそれは」
「褒め言葉だよ。僕はどうもこういう格好が似合わないからなぁ」
「そうでもないさ。どこからどう見ても立派な俺の騎士だ」
褒めると、困っているのか照れているのか、眉を情けなく下げながら「孫にも衣装って言いたいんだろう」と唇を尖らせた。どうやら拗ねているらしい。
「褒め言葉だ、素直に受け取っておけ」
「そうだな、どちらも同じだけ“孫にも衣装”レベルだ。安心しろ」
突然聞こえた声は振り返るでもない、C.C.のものだ。
「君もいたのか」
「当然だ。C.C.だからな」
大きなソファの上で怠惰に転がっているC.C.を見れば、俺達を見ながらどこか楽しそうに笑んでいる。
「どうした、ご機嫌じゃないか」
そう揶揄すると、C.C.は目を閉じて微笑んだ。
「そうだな、そうかもしれないな」
それきり、すぅと寝入る。聞こえてきた寝息に、スザクと顔を見合わせて肩をすくめた。
起こすとうるさいからという理由で部屋を変え、遅いランチをとることにした。
皇帝陛下がそんなことしていいの、と言うスザクに、もう趣味なんだから気にするなと返して部屋に備え付けられた簡素なキッチンに立つ。
動くのに邪魔な装飾過多の上着を脱ぎ、米を炊く。厨房から持って来させた野菜と魚を煮付け、味噌を溶いた。きっとこの先料理をする機会など訪れないだろうことを思い、スザクが好きだと言ったものを作ることにする。
「でも嬉しいよ、君の手料理は美味しいから」
じゃあ僕も、と隣で茶をいれるスザクは、目を細めて曖昧に微笑んだ。じゃあなぜそんな顔をしているんだ、と問うことはしない。その表情の意味を既に知っているからでもあったし、実際問うたとして自分に返せる返事がないことを知っていたからだ。
皿を並べるスザクの背中を横目で見つつ、不思議なものだと思った。
テーブルを挟み、一緒に食事をとる。こんな日がまた訪れるとは、正直思っていなかった。この状況が、自分にとって可笑しいのか嬉しいのか自分でも分からない。
「そういえば、僕も君も式はしていないね。戴冠式とかそういう」
「元々ブリタニアに戴冠式はないぞ。この国にとって王座とは勝ち取るもので、力ない先王などに用はないからな」
「そんなものか。王様には王冠がつきものだと思ってたけど」
「他の国ではそうかもしれないな。この国が特異なだけだ」
柔らかく湯気を立てる魚の身を口に運ぶ。向かいでスザクが「おいしい」と言う。それを聞いて、胸が温かくなるのが分かった。
「でも、そんな服が似合うんだから王冠だって似合いそうだよ、ルルーシュ。帽子じゃなくて王冠にすればよかったのに」
「ぎらぎらと宝石で飾り立ててか?ごめんだな」
そんなもの肩が凝って仕方ないと肩をすくめると、スザクはそんなものかなと曖昧に頷いた。
「それに、8年前に俺はもう王冠を戴いている」
「ん?何か言った?」
翡翠色の目を瞬かせるスザクに、緩く首を振った。
「いや、何も」
それ以上突っ込んでくることもなく、淡々と食事を続ける。
部屋に飾られた花瓶を視界の端に入れながら、思い出すのは8年前のことだ。最近よくあの頃のことを思い出す。
様々な多くの思惑のなかで、ままならない状況のなかで、それでも笑いあえていた日々。
売り渡された敵国で見つけた光。太陽のようだと、思った。今もそれは変わらない。初めて出会い、そして俺が死ぬその瞬間までおそらく。
あの頃に戻りたいわけではない。俺には為すべきことがある。嘘だらけの俺の人生のなかで、この約束だけは違えるわけにはいかないのだから。
「食器は僕が片付ける。君は、君の仕事を、陛下」
「ああ、頼む」
こちらに背を向け、キッチンに向かうスザクの後姿を見る。
あの頃とは何もかもが違う。思いも、纏う衣服も、2人の間にあるものも、俺達自身も。
けれど、それでいい。あの頃に戻りたいわけではないのだ。いくら穏やかに笑いあおうとも、それはもう輝いていたあの頃ではない。
記憶は美化されるものだ。それが優しいものであればあるほど。
「立ち止まることはしないさ。あの日戴いた王冠に相応しい稀代の王として、この自ら置いた舞台で演じきってみせよう」
スザクは洗い物に夢中で気付かない。ああ、そうだ、それでいい。
お前も立ち止まるな。振り向くな。
俺達は、ただ前を。ただひたすらに明日へ。
「これはスザクさんのぶんです。今日ここにつれてきてくださったおれいです」
「はなかんむり?オレに?」
「ナナリーからプレゼントをもらえるなんて幸せ者だぞ」
「お兄さまのぶんも今つくりますね」
「あっ、じゃあさ、ルルーシュの分はオレが作ってやるよ!」
「無理じゃないか?君は不器用だから」
「うるさいな、やれるよ!みてろよ、すっげーの作ってやるからな!」
「わかったわかった。期待せずに待ってるよ」
「ふふっ、だいじょうぶですよ、お兄さま。がんばりましょうね、スザクさん」
―――やさしいじかんだった。
「いつまでそんなむずかしい本読んでんだよ!ほらっ!」
「ぅわっ!何するん…できたのか?」
「当然だっ!」
「お上手ですよね、スザクさん。お兄さま、どうですか?」
―――頭に乗せられた花冠。ほつれた花が頬にあたってくすぐったかった。
「ん、似合ってる!オレが作ったんだからな、大事にしろよ!」
「そうだ、スザクさん、しゃしんがとりたいです。せっかくですもの、きねんに」
「いいな、それ!よしっ、行くぞ!ナナリー、ルルーシュ!」
―――差し出された手。力強く握られた手のひらの熱さは今も忘れない。
「あ…っ!…あ、ありが、とう、スザク」
「ははっ、どーいたしまして、ルルーシュ」それは、あたたかなむかしむかしのこと。
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