夕べは結局涙がなかなか止まらなくて、眠れませんでした。今日も行き帰りと電車のなかでも泣いてしまう始末(WORLD ENDとかロロのキャラソンとか聴くから余計に)。仕事中もしょっちゅう涙目になって、一日中目元が腫れぼったかったです。
ほんとに、ルルーシュがだいすき。
25話派生話。ちょっと薄暗くなってしまった。まだあんまり上手く頭が回ってないので、雰囲気SSかと。
いつの間にかほんの僅か追い越した背。
相変わらず薄いその背中を見るたびに、スザクは唇を噛む。恐らくは無意識に。
お互いが逃げずに、背けずに、偽らずに、罵り合って、傷付け合って、それでも話をしたあの日からどれくらい経つのだろうか。
獣以外住んでいないに違いないと思うような山奥では、移ろう時間は曖昧で空虚だ。これから自分たちは世界を敵に回すのだというのに、過ぎ行く時間はどこまでも静かで得難いもののように感じる。それはきっとルルーシュにとっても同じだろうとスザクは思った。
「また山菜か。私はピザが食べたい」
簡素なソファで黄色のぬいぐるみを抱えたまま緑色の少女が言う。
ルルーシュは表情を変えることなく、「もうしばらく我慢しろ」と答えた。
そのしばらく先が、始まりだ。きっと慌ただしくなる。C.C.と名乗った彼女はピザを口にすることが出来るのかとぼんやり思い、それこそどうでもいいことだと思い直して、木刀を振り下ろす動作を再開した。
朝起きたら、まずルルーシュを起こす。C.C.は起こさない。必要がないと既に学習している。
ルルーシュを起こしたら、顔を洗って歯を磨き、すっかり手に馴染んだ手作りの木刀を持って裏庭へ出て稽古をする。
メニューを終える頃、家の中からいい匂いが漂ってくるので、手と顔を洗ってルルーシュと一緒に食卓につく。ここでも彼女が一緒に食事をとるのは半々だ。一日の大半をごろごろと横になって過ごすか、ふらりと散歩に出かけている様子だった。
食事を終えたら、ルルーシュの洗濯の手伝いをする。その後は掃除の手伝いもし、2人で近くに茂る山菜や果実、魚、兎や鳥の肉を取りに出かける。特に会話もないが、揃って黙りこくっているわけではない。
夕方になったらまたルルーシュ手作りの夕食を口にし、稽古を済ませ、シャワーを浴びて3人で一つの寝床に横になる。
この繰り返しだ。
最初はその現状を思うたび、笑いたいのか唇の端が痙攣しかけていたスザクも、今ではもうそんなこともなくなった。
2人で向き合った日から、ルルーシュの表情は変わらない。
一日一日と死に向かって進んでいるというのに。
いや、とスザクは思った。伝い落ちる汗を袖で拭って、それは自分もかと思い直す。
お互いに、アッシュフォードで再会したばかりの頃のように、8年前のあの頃のように笑い合うことはなくなった。スザクはそれでいいと思っていたし、ルルーシュも何も言わなかった。けれど、雄弁な―それでいて無口な少女だけが時折何か言いたげに2人を見つめていたが、1人は気付かないふりをして1人は少女よりももう一人の少年を見ていて気付くことはなかった。
森の中のどの辺りにどんな実をつける木が立っているか、同じ獣道でもどう行けばより小川へ近道できるかがスザクの脳に記憶される頃、雨が降った。久しぶりの雨だった。
少女はおらず、ルルーシュとスザクは2人、それほど広いとも言えない室内で微妙な距離をあけながら揃って窓を叩く雨を見上げていた。
空を覆う厚い雲のせいであたりは暗い。それでも窓辺にいるおかげで、2人は特に不便を感じることもなく、ただ淡々と時間が過ぎるままにしていた。
ふと、視線を感じてスザクが顔を上げると、じっと見つめてきているルルーシュと目が合った。
静かな室内に、音はない。さらさらという雨音だけが控えめに部屋の床を浸していく。
「…どうしたの」
問いかけたスザクの声に、ルルーシュはゆっくりと瞬きする。紫紺の瞳が濡れているように見えた。
「もう10日が経った」
ルルーシュの声に、感情は見えない。スザクはまるでそれを探すかのように、じっとルルーシュの目を真正面から見据える。
「3日後に、向かう」
どこへ、とは問わない。スザクは揺らがないルルーシュの目を見つめながら、しっかりと顎を引いた。
「分かった」
答えはそれでいい。ルルーシュはまたゆっくりと瞬きをして、そっと席を立つ。スザクは視線を窓の外に戻し、絶え間なく落ちていく雨粒を目で追った。
たった今ルルーシュを穿ったばかりの手がひどい熱を持っている。スザクは指先に鈍い痺れを感じて、仮面の下きつく眉根を寄せた。
ナナリーの声が遠い場所から聞こえてくるような錯覚に、固く柄を握り直す。背筋を伸ばし、決して下を見ることはしない。ゼロならばこうする。
視界に、赤い線が引かれているのが映る。この仮面を通して見る世界が灰色ならよかったのに、とスザクはふと思った。
けれど空はどこまでも青く晴れ渡り、スザクとルルーシュの願った世界はうつくしかった。
あるいは、今日が雨ならよかったのに。そう思って、いやとスザクは内心首を振る。ルルーシュが逝く日が晴れでよかった。
空気を震わせるほどの大歓声の中、スザクは仮初めではあったけれど、穏やかだったあの数日間を思い出していた。
奇妙な同居生活は、歪ながらも凪いでいた。スザクとルルーシュと、そして恐らくはあの少女も望んでいた生活だったのだろう。
いつの間にか多くの人々がゼロの元に集まってきていた。口々にゼロを讃え、ルルーシュを罵倒する。
あの生活の中で、そしてナイトオブゼロとなった後も、ルルーシュに仮面を手渡されたあの瞬間も、スザクはルルーシュに言いたいことがあった。
何を言いたかったのか、今でも分からない。
けれど、スザクはそれを突き詰める気はなかった。
言いたかったことは分からない。でも、ずっとしたかったことなら分かっている。
ついに行動に移すことはなかった。ただ毎日繰り返し思い、思った瞬間に忘れ、そして翌日また思い出していたそれ。そんな調子だったから、そんなに重要なことではなかったのかもしれない。そもそも、なぜしたかったのかも実はよく分かっていないのかもしれない。そうスザクは思った。
彼の名前を呼びたいと強烈な衝動が喉を襲う。しかし声を出す代わりに、スザクは未だ血の残る剣を空へ向かって突き上げた。
一気に歓声が勢いを増す。
そうだ、とスザクは空を見つめて小さく呟いた。
ただ、触れたかったのだ。
恐らくは、きっと、彼の魂に。
明日こそ、キスを
(恋人同士の唇の触れ合う魂の接触)
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