現代パロです。
ルル:英国公爵家の庶子。マリアンヌは亡くなってますが、ナナリーに障害はありません。
スザク:日本の元首相の一人息子
という設定で、ある程度原作をなぞって展開します。でも、戦争も、ギアスもありません。ほのぼのとシリアスと悪ふざけを織り交ぜながらやっていこうと思います。
いろいろととんでもない設定が飛び出しますが、何でも来い!というお方は、よろしければお付き合い下さいませ。
一話目 Author:澪
きっといつまでも、変わらないものをあげよう。
うつろいゆくものを怖れるあなたに。
不朽の優しさを、永遠の愛を。
だからどうか、信じて欲しい。
Le Petit Prince 出会いは、お互いに最悪の一言だった。けれどお互いに、その睛の色彩に魅入られたことだけは、動かしがたい事実。国籍も言語も生活習慣も異にする二人だったけれど、好奇心には勝てない。だってお互いに、子どもだったから。
「なんでおまえはそんなに父親が嫌いなんだ?」
ルルーシュの話を聴いていたスザクは、心底不思議そうに首を傾げ、素直に訊いた。屋根裏部屋は二人の秘密基地。ナナリーにだって内緒だ。お菓子とジュースを持ち込んで、懐中電灯を持って装備は完璧。「男同士の話」は、いつもここでする決まりだ。
「ちちは、ころした、ははを」
ルルーシュは、綺麗な顔を精一杯憎しみで歪めて、拙い発音でぶっきらぼうに呟く。スザクは、はあ?と盛大に眉をしかめる。日本語を間違っているのだろうと思い、英語でいいからもう一度、と頼めば、やはり、父親が母親を殺したと綺麗なキングスイングリッシュで言う。スザクは文字通り頭を抱えた。
ルルーシュとナナリーは、スザクの父親の現日本国首相である柩木ゲンブが懇意にしている、英国貴族の子どもたちだ。二人はつい最近母親であるマリアンヌを亡くしたばかりであり、とても傷ついている。だから、二人の心の傷を癒すために、父親であるシャルルは、しばらく二人をマリアンヌの故郷でもある日本へと渡した。それが二人が柩木家に預けられた経緯であると、ゲンブから聞いている。
「殺したって……病気だったんだろ?」
「びょうき、しかし、はははちりょうがなかった」
「えーと……ううん、もどかしいな、これ……」
スザクも物心ついた頃から英語を叩き込まれているので、リスニングは完璧だ。けれどやはり難しい単語や細かいニュアンスはわからない。ルルーシュとナナリーは、聴いたこともないくらい綺麗な英語で喋るけれど、日本贔屓のシャルルと、日本人と英人のハーフであるマリアンヌの影響で日本語もそれなりに話す。律儀に日本語で挨拶した二人に、英語でいいよとスザクは笑って英語で伝えたが、それにルルーシュは一瞬躊躇った後、「When in Rome do as the Romans do」と謎の言葉を返してきた。郷に入らば郷に従え。お互いに、それぞれの国での訳語を知らなかったことが些細な喧嘩の発端だ。それが何故殴りあいにまで発展したのかは二人にとっても謎だった。言葉の壁は思うよりも厚く、そして高かった。
「えーと、治療を受けられなかった? それも、父親のせいで?」
「Correct!」
もはやテレパシーの領域でルルーシュの思考の推測をする。ルルーシュは日本語の聞き取りは充分できるが、さすがに漢字までは読めないし、喋りも危なっかしい。こうした先取りの会話が重要だ。変な特技ができたな、とスザクは嬉しそうな顔のルルーシュを見ながら思う。
「なんで? 公爵だろ? いくらでもすごい治療を受けられるんじゃないのか?」
疑問を重ねれば、ルルーシュはそのまま押し黙ってしまった。ルルーシュ自身もその経緯を知らないのか、それとも表現がわからないだけなのか。多分知らないんだな、とスザクは思う。言葉をかけられずに見詰めていると、ぎっとルルーシュが顔を上げた。
「わたしは、いえをすてる!」
あまりにもその表情が思い詰めたものだったので、スザクは、なんだかとにかく複雑な事情があるのだと大雑把に理解をして、ルルーシュの肩を叩いた。
「よし! それでこそ男だ! 俺がおまえを、日本男児として認める!」
「ニッポンダンジ?」
「誇り高い男って意味だよ!」
なんだかよくわからないなりに、二人とも気持ちだけは重なって、笑い合った。
「その時は、また、俺のとこに来いよ! 俺とおまえが組んだら、できないことなんてない!」
ルルーシュの深い深い紫が、より一層深みを増して、本当に綺麗に微笑んだ。
思えばきっと一目惚れだったのだ。
妹のナナリーも同じ睛の色で、見たこともないくらいに可憐で可愛かったけれども、ルルーシュの、日本人よりもよほど美しい漆黒の髪と透き通るような肌、そしてナナリーとは違う、ぴんと張り詰めたその睛に惹かれた。
強い意志を秘めた至高の紫。
こんなに綺麗なものがあっていいのかと、ルルーシュの睛を見るたびに思った。
うつくしい兄妹が訪れたのは、丁度スザクが長期休暇に入ったばかりの眩しい夏のことだった。三人は、きょうだいのように共に過ごした。たまには喧嘩もし、けれどそれよりも多くの時間を遊びで費やした。ずっと一緒だった。母を喪ったナナリーの傷つきは大きく、最初はほとんど口を開くことがなかったけれども、スザクの明るさに、その笑い声に、徐々に心を開いていった。スザクの小学校が始まっても二人は留まり、一年に近い年月を、三人は過ごした。
たどたどしいルルーシュとナナリーの日本語が、流暢に自然になりはじめた頃、英国から次兄だというシュナイゼルが直々に二人を迎えに来た。その時初めてスザクは、ルルーシュが度重なる帰国の要請を退けていたことを知った。
ルルーシュは突然迎えに来たシュナイゼルに猛反発し、ナナリーも帰りたくないと泣いた。スザクも加勢した。けれど、三人とも、子どもだった。
これ以上は柩木家に迷惑がかかることになるんだよ、と穏やかに諭されたルルーシュは、その時初めて、兄に屈した。
初めて見たルルーシュの涙に、びっくりしてスザクも泣いた。
お別れをと促されて、ルルーシュはぽろぽろと大粒の涙を止め処なく流して、ぎゅっとスザクを抱き締めた。ナナリーも小さな手を懸命に伸ばして、一緒に縋りついた。
「スザクさん、さようなら……ありがとう……」
「スザク、スザク……」
「ルルーシュ、ナナリー……」
うつくしい兄妹は、きつくスザクを抱擁して、そうして、交互に優しいキスを残していった。頬に押し付けられた唇のやわらかさや、涙で濡れた冷たい肌の感触を、いつまでもスザクは憶えている。
とても優しい記憶だ。
長じてからもスザクは、つらいことがある度に、その優しい記憶を掘り返しては、心を暖めた。
彼らは、――ルルーシュは、まだ、自分のことを憶えているだろうか。
彼らが去って間もなく、ゲンブは汚職を摘発されて失脚した。日本を揺るがせた一大スキャンダルだった。きっと歴史の教科書にも載るだろう。知らせは、彼らにも届いただろうか。柩木家と関わったことが、彼らの高貴さに傷をつけたことを思うと、スザクはいつもどうしようもない気持ちになって途方に暮れる。ルルーシュとはまた種類が違うが、今なら、彼がどうしても父親を赦せないというその気持ちを、スザクなりに理解できる。
高校進学の際、スザクは「家を出る」という条件で、超難関の私立校であるアッシュフォード学園に入学を決めた。本当は、高校に進学せずに、自立しようとすら思っていたのだ。それくらい、家が嫌いだった。馬鹿なことをと周りの大人からは散々叩かれて、結局、スポーツ推薦の恩恵にあやかった。
幼い頃から一心に専念してきた剣道が、こんな形で役に立つとは。
スザクは全国区で名の知れた選手だった。アッシュフォード学園は、文武両道の精神で、部活動にもかなり力を入れている。スポーツではどの競技においても、それなりの成績を常におさめている。
もうすぐスザクは、17になる。
高校生活は、たどたどしくも、とても充実していた。スポーツ特待生だけあって、学費は免除されている。生活費だけは、「とりあえず今は借金ということで」と親から出して貰っている。義務教育までは親の義務と割り切った。でもそれ以上の施しは受けたくない。扶養家族であるということ自体がスザクにとっては恨めしい。本当は生活費すら親に頼るのは不本意であるが、厳しいアッシュフォードの学園生活では、アルバイトに精を出す暇がない。
腐った時期も長かったが、それなりに高校生活に楽しみを見出し始めたスザクは、ある朝ニュースを見ていて牛乳を盛大に噴き出した。ぽとぽとと零れ落ちる雫もそのままに、画面を凝視する。それは、日本の超有名企業が、英国のこれまた超有名企業に買収されたというニュースだった。
新取締役代表として会見に臨むその青年は。
「シュナイゼル!……さん、」
ルルーシュの次兄だった。
「懐かしいな、この湿気!」
自動ドアを抜けた瞬間に、もあっと盛大に押し寄せる熱気に、長身の少年が嬉しそうに眉をひそめる。
「ほんとに帰って来たんですね、お兄様」
色素の薄い長い髪を揺らして、少女は微笑んだ。
モデルかハリウッドスターかと、周囲の日本人の視線が集まっていることなど露ほども気に留めずに、二人はナリタ空港のエントランスで懐かしい入道雲を眺めた。少年の漆黒の髪が風に僅かに揺れ、至高の紫がゆったりと細められる。
「さあ、スザクに会いに行こう、ナナリー」
ルルーシュは、この上なく嬉しそうに、けれどどこか、悪戯をしかける子どものように、うつくしく笑った。
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