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4話目です!めっちゃ書いたぜ!と思ったのに…あれ、あんまり進んでない…?>物語の時間的に
Author:澤村ゆつき








「カツ丼が食べたい!…って、え?えええ!?」
「耳元で大声を出すな。ほら、さっさと行くぞ。最寄のスーパーまで案内しろ」




 Le Petit Prince 4




 マンションから駅に向かう途中に、書店や衣料品店、薬局にフードコートまで揃った大型の24時間スーパーがある。そこへルルーシュを案内したスザクは、未だに激しく混乱しながらもルルーシュに言われるままカゴを上下に2つ積んだカートを押していた。
 時間はちょうど夕食時ということもあって、店内は主婦や帰宅途中の学生で混み合っている。しかし突然現れた場違いの、その上やたらと見目麗しい男子高校生2人組に入り口近くにいた人々は一瞬動きを止めた。混んでいるはずの店内だったが、ルルーシュとスザクの行く先には自然と道ができる。
 スーパーにルルーシュと2人、しかも一緒に買い物をしているという状況に(相変わらず事態は飲み込めていなかったが)スザクが浮かれていられたのは、カートを押して歩き出した5歩目までだった。
 山と積まれていく調味料や食材、キッチン用品のその予想を遥かに上回る量に、スザクの緩んだ顔も徐々に青ざめていく。ルルーシュの手元とカゴの中身との間で視線を行ったり来たりさせていたスザクだったが、もうひとつカゴを持ってきたほうがいいだろうかというルルーシュの呟きを聞いて、さすがに声を上げた。
「ちょ、ルルーシュ!」
 焦りを多分に含んだスザクの声にルルーシュが振り返る。
「どうした、何か欲しいものでもあるのか?」
「そうじゃなくて!ちょっと買いすぎじゃないかな、これ。そんなにお金も持ってきてないし…」
 ズボンのポケットに入れた財布を指さすと、ルルーシュはきょとんと瞬いて首を傾げた。
「それがどうした」
「結構重要な問題だよ。昨日家賃払ったばっかりだから財布の中あんまり余裕ないんだけど」
 そう言いながら思い返した財布の中身に、内心深い溜息が出る。そもそも夕食の買い物だというから、スザクは出来合いの惣菜を買うかカツ丼の材料を買う程度だと思っていたのだ。
「気にしないでいい。今日の買い物は俺が必要で買うものが殆どだ。調味料だって本来ならばお前は使わないだろう。俺が払うさ。そんなことよりも、」
 情けなく眉を下げるスザクに、ルルーシュは正面から向き直る。腕を組み、尊大にも取れるポーズで言い放った。
「いいか、スザク!俺が一緒に住むからには、お前には完璧な食生活を送ってもらう!」
 それほど大きな声を出したわけではなかったが、幸か不幸かルルーシュの声はよく通る。それでなくとも周囲の人々は2人の言動を気にしていたというのに、そのセリフの内容を耳にした精肉売り場にいた殆どの人間がルルーシュを振り向いた。
 一緒に住むという一言を拾って、幾人かの女性の中には何やら顔を赤らめている者までいる。しかし2人は気付かない。それこそ幸か不幸か、スザクもルルーシュもその出自と容姿のせいで他人からの視線というものに慣れていた。それが敵意や悪意を含まないものならば、あってないようなものだったのだ。
「心配はいらないぞ、洋食や中華に限らず日本食もマスター済みだ。好き嫌いなど関係ない、一切の偏りもない医者いらずの食事をさせてやる」
 ルルーシュは上半身を傾け、スザクに顔を近付けて言葉を続ける。売り場のそこここから小さく悲鳴めいた声が上がった。
「調味料はマヨネーズとケチャップとだけ、保存食にはタイムセールで買い溜めしたと思しきカップラーメンの味噌味と醤油味が各20個ずつ!お前が自炊しないだろうことは薄々イメージしていたが、それを抜きにしても嘆かわしい。冷蔵庫とはペットボトルを冷やすためだけに存在するものではないぞ、分かっているのかスザク」
 突然至近距離にまで近付けられたルルーシュの顔に、スザクは思わず肩を揺らした。綺麗なものは遠くから見ようが近くから見ようが関係ない、やっぱりすごく綺麗だと頭に花を飛ばすスザクの耳にルルーシュの小言は最早入っていない。分かっているのかという言葉だけをかろうじてキャッチし、慌てて頭を上下に振った。
「だ、大丈夫!好き嫌いはないよ!」
 自信満々に返された返事はズレているにも程があったが、ルルーシュは満足げに頷いて再び歩き出した。
「よし、そればらば問題ないな。買い物を続けるぞ。そういえば、明日の弁当の具は何がいいんだ?」
「コロッケ!野菜のとカボチャのやつがいいな、ルルーシュ」
 仲良く並んで買い物をする2人の男子高校生の姿は、その日から時折そのスーパーで見かけられるようになった。特に出現率の高い土日は、2人を一目見ようとする客が多く詰めかけるようになるのだが、それはまた別の話だ。



「ってルルーシュ!僕まだ聞いてないよ!何で一緒に住むって話になったのかの説明!」
 髪から水滴を落としながらバタバタと駆け寄ってくるスザクに、ルルーシュは心底呆れたような目を向けた。
「満腹になるまで3杯も大盛りをおかわりし、風呂まで入った後に言う言葉がそれか」
「ずっと考えてたよ。だけど君のご飯が美味しいからすっかり忘れちゃって…」
 ルルーシュの座るソファの前に膝立ちになったスザクは、どこか肩を落としたようにルルーシュを見上げた。
「言っただろう、俺は家を捨ててきたんだと。俺はもう家の世話にはなりたくないんだ。本当ならばナナリーと離れることはできるだけ避けたかったが仕方ない。この部屋に3人はさすがにきついだろうからな。しかも幼い頃とは違う。ナナリーも嫁入り前だ」
「それは、うん、そうだね」
 スザクの住む部屋は2LDKだ。一般男子高校生が1人で住むには広すぎるが、2人ならば話は違う。元々使い道がなく放置してあった空室を自分が使うと宣言し、ルルーシュは早々に掃除まで済ませてしまった。
「でも、えと、夕方の繰り返しになっちゃうけど、だからこそナナリーと一緒に住めばいいんじゃないのかな?」
 スザクにすれば、ルルーシュを思っての言葉だった。京都にある実家の屋敷ならばともかく、一般向けに作られた、さして広くもない普通のマンション住まいなどルルーシュにとっては狭苦しくて仕方ないのではないか。しかも一人で住むのではなくスザクと同居だ。思い浮かんだ同居という言葉に内心一人で妙に焦りながらそう告げると、ルルーシュの眉間にみるみる間に皺が寄る。
「俺と住むのは嫌じゃないと言ったのはお前だ、スザク」
 これは怒らせたかもしれないと、スザクは慌ててルルーシュの顔を覗きこんで首を振った。
「当たり前だよ!嬉しいに決まってる!だけど君、ナナリーを一人にして平気なのか?」
 記憶のなかのナナリーを思い浮かべる。初めて出会ったときからルルーシュのナナリー溺愛っぷりは相当なものだった。その彼が妹と離れて暮らすなんて想像ができなかったのだ。
「平気なわけあるか。だが、それほど遠くにいるわけではないし、信用に足る腕利きのメイドもつけてある。あの場所にいる限り俺が傍にいなくとも安全は保証されているからな」
 スザクの首に巻かれていたタオルを取り、水分の残ったスザクの髪を拭き始める。ルルーシュの手の心地よさに思わず目を細めながらスザクは頷いた。
「そっか。僕もまたナナリーに会いたいな」
 そう言えば、ルルーシュもまた嬉しそうに微笑む。
「もちろんだ。ナナリーだって会いたがっていたさ。ナナリーだってお前に会うために日本に帰って来たんだ」
 幼い頃、ほんの一年に満たない間だけ共に過ごした幼馴染み。普通に考えるならば成長と共に薄れていくだろう繋がりだ。まして連絡を取り合う手段すらなく、元気なのか今何をしているのかも知ることができなかった。忘れられているかもしれないと何度思ったか知れない。
 だけど。
 スザクはふにゃりと顔を歪め、再びルルーシュの背中に手を回した。何度確認しても足りない。彼がここにいるということ。
「何年経っても泣き虫は変わっていないんだな」
 苦笑交じりの声で、それでもルルーシュは労わるような手つきでスザクの背を撫でる。
「だって、嬉しいんだ。嬉しい。すごく嬉しいよルルーシュ」
 嬉しい、と何度も言葉を重ねるスザクに、ルルーシュも思わず顔を歪めた。会いたがっていたのは自分達だけではなかったと知って、それだけで心が満たされる。
「ああ、俺も嬉しいよ。スザク」
 手を伸ばせば触れられる。声をかければ返事がある。この距離を6年願い続けてきた。
 2人して顔を見合わせて笑った。6年前に離してしまった手を再び取ることができた幸せに、スザクはやっと心からの笑みを浮かべる。
「じゃあ早くナナリーにも会いに行かないとね。早速明日とかは?マネージャーに理由を言えば部活も早めに上がれるし」
「明日はだめだ!」
 目を擦りながら言ったスザクの言葉を、しかしルルーシュは一瞬で切り捨てた。その返しにスザクも目を瞬かせる。
「来週の半ばまで兄上がいるんだ。行くならその後にしよう」
「あに…あ、シュナイゼルさん?」
「そうだ。名義こそ俺の名で借りてあるが、あのマンションはそもそも兄上の持ち物だ。くそっ、道楽でマンション経営だと…本職に打ち込んでいればいいものを!しかしセキュリティ面で考えればあそこ以外の選択肢などないのが癪に障る…」
 忌々しそうに呟くルルーシュに、スザクは思わず苦笑した。6年前のルルーシュの帰国騒動のときから、スザクも何となくシュナイゼルは苦手な相手だ。恐らくルルーシュとナナリーを連れて帰ってしまった張本人という印象が強すぎるのだろう。ルルーシュもルルーシュで幼い頃から腹違いの次兄のことを苦手に思っているような節があった。たどたどしい日本語で教えてくれた兄妹の話のうち、彼に関する話題だけはあまり楽しそうではなかったから。
「うん、わかった。じゃあそのときは部活を休めるようにしておくね。お土産は何がいいかなぁ」
「お前の選んだものなら何でも喜ぶさ。俺はケーキでも焼いていくかな」

 それから他愛のない話をし、テレビを見て、明日のために早く寝ようという時間になったとき、不意にスザクがルルーシュを見つめてこう言った。
「つまり、君は僕と一緒に住みたかったってこと?」
「ほわぁっ!!」
 突然投げかけられた言葉に、手にしていたコップを取り落としそうになる。それを慌ててキャッチしたスザクは、危ないよルルーシュと言いかけて口を閉じた。振り返ったルルーシュの顔が赤く染まっていたからだ。
「何を言っている。俺は兄上のマンションになど住みたくなかっただけだ。それにこっちの方が学校には近いからな!徒歩10分もかからない。極めて効率的だ!」
「うんうん」
「そ、それに久しぶりの日本だからな、詳しい奴の近くにいた方が混乱も少ない。あのスーパーも品揃えが気に入った。スーパーだってここからの方が近い!」
「そうだね。それで?」
「そ、それで!?」
 スザクは吹き出しそうになるのを必死に堪えて相槌を打った。今日スザクに連れられて行って初めて知ったスーパーなど理由になっていないことにルルーシュは気付いていない。
 彼が必要以上に言葉を重ねるときは隠したいことがあるとき、そして、加えて顔が赤くなっているならば、それは照れ隠しである場合が多いとスザクは6年前から知っている。
「しょ、庶民の暮らしがしてみたかったからだ!」
 公爵家の出でありながら、ルルーシュが身分というものに殆ど頓着していないこともとうにスザクは知っていた。ここまで言えば、逆に正直に告げているようなものなのに。スザクは盛大に頬を緩ませながらとうとう我慢できずに吹き出した。
「何を笑っている!」
「君を笑ってるんじゃないよ、ルルーシュ。ごめんごめん。ほら、もう寝よう?」
 笑いで滲んだ涙を擦りながらそう言えば、納得できないと一目で分かる表情をしつつもルルーシュは頷く。その妙な素直さにも笑いそうになりつつ、スザクは寝室の電気を消す。
 今はまだ贅沢かな。でもいつか言って欲しい。
 ここへ来たのは、僕の傍にいたかったからだって。
 寝具の予備がないからと隣で眠るルルーシュを見つめながら、スザクは眩しいものを見るように目を細める。2人で寝るには手狭なベッドが、まるで天国のように思えた。
 普段はろくに信じていない神様にありがとうとお礼を言いたい気分だ。そう思いながら目を閉じる。
 6年ぶりに感じる愛おしい幼馴染みの体温は、涙が出るほどあたたかかった。






無自覚ルルが好きです(笑)スザクの服を借りるルルをどっかに入れたかったけどあぶれた文↓
「背格好は似通っているにも係わらず、自分のものよりも若干胸周りに余裕があったことにルルーシュは面白くなさそうに眉を寄せた。それでも借りているのだからと特に文句も言わず袖を通す。」
体格差いいね!(笑)
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