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遅くなりましたすみません!; 現代パロの続きです。
Author:澪







 またいつか会えたら。
 でも本当は、そんなこと起こるわけがないと思ってた。
 また会いたいと、どんなに心の奥底でそう願っても。
 諦めることをおぼえることが、「大人」になることだと、柩木という「家」が壊れた時に、そう、思ったから。




 Le Petit Prince 3




 超美麗な転入生という話題性だけでなく、柩木スザクとの珍妙な「再会」の一幕という追加効果も加わって、ルルーシュ・ランペルージの存在は転入初日にして一気に学園中に知れ渡った。休み時間の度に、ルルーシュを一目見ようと噂を聞きつけてやってくる生徒の人数が倍加していく。けれど、当の本人は露ほどもその騒ぎを気にする様子はなく、スザクに至ってはもはやルルーシュ以外のなにものも眼に入っていなかった。
 どこか夢見心地でふわふわと時間ばかりが過ぎていき、ふとスザクが気付いた時には放課後で、そしていつの間にか自宅の玄関のドアを開けていた。ふあっと自宅の空気に触れて、一気に現実感が戻ってくる。それに僅かに眼を見開いて、スザクは慌てて振り返った。
「どうした、スザク」
 ルルーシュが、かすかに微笑んで、小首を傾げる。さらりと、漆黒の髪が揺れた。
 ちゃんと、いる。
 スザクは靴を脱ぐのも忘れて、けして狭くはないが、高校生男子二人にとっては広くも無い玄関で、ルルーシュを確かめるように掻き抱いた。スザクの鞄がごとりと重い音を立てて床に着地する。すうっとスザクが息を吸い込むと、不思議なあまい香りが鼻腔を充たした。ルルーシュのかおり。幼い頃とは違う、洗練されたにおいだった。
「ルルーシュ……」
 そっと吐息と一緒に自分に言い聞かせるように声を落とす。それはふうわりとゆっくり空気に溶けていく。
 教室の時とは違い今度は、ルルーシュは大人しくスザクの腕の中におさまっている。そればかりか、そっとルルーシュもスザクの背に腕をまわしスザクを抱き返して、ぽんぽんと、軽く宥める。スザクは、ほろほろとしめやかに涙を零していた。
「夢じゃないんだ……」
 君ともう一度会えたこと。
 君が僕を憶えていてくれたこと。
 君が、僕の名前を、呼んでくれたこと。
「ようやっと目が覚めたか?」
 ルルーシュが苦笑する気配が、全身に伝わってくる。抱き締めた身体は、とても細くて、薄くて、骨張っていて、離れていた年月を知らされる。追憶の中だけに存在した幼いルルーシュはもういない。あれはもう、遠い遠い日々。もう掴めないもの。
 でも、今、この腕の中に在る。
「会いたかった……!」
 ぎゅっと抱き締めると、ルルーシュはふっと吐息でわらって、俺もだ、とやわらかく言った。
「スザクに会いたくて、日本に帰って来た」
 幼い頃とは違う、落ち着いた低音。なめらかな日本語。夢じゃないのに、夢じゃないかと思う。
「今まで、よく堪えたな。おまえはおまえの名を恥じる必要はない」
 スザクの耳元で、これ以上ないほどやさしいものが紡がれた。それにどっと、張り詰めていたものが緩んでいく。夢でもいいから、このまま眼が醒めなければいいと思うと同時に、ほろりとまた涙が染み出した。
 スザクが、そもそも全寮制である筈のアッシュフォード学園に在籍しながら、単身マンションを借りて住んでいると告げた時、ほんの少しだけ細められたルルーシュの睛。ルルーシュはすぐに楽しげに笑んで、すこぶる尊大に、ならばおまえの家に招待しろと命じたけれども、その言葉にスザクはどこか救われたような心地にさえなった。
 ルルーシュと一緒に帰る。
 ただそれだけのことで心はぎゅうぎゅうにいっぱいになって、もう、ろくにものも考えられず、帰巣本能のみで辿り着いたと言っても過言ではない。
 アッシュフォード学園は、学業や部活動の実績だけでなく、生徒の自主性と自律性を重んじるという文言の下におけるとても自由でユニークな校風でも知られている。元を辿れば英国に本校を持つこの学園は、留学生の受け入れにも力を注いでおり、英語に留まらない外国語教育は日本で指折りの実績を誇る。独特な校風と、日本でトップクラスの教育実績を有するこの学園には、財政界に名を連ねる良家の子女も数多に在籍している。
 学園の自由奔放な気質にならって概ねの生徒は氏にとらわれることなくスザクに接するが、それでもやはり、柩木の名に「反応」を示す生徒も少なくはない。
 どこからか「柩木」の入学を聞きつけた保護者が、連名で学園に抗議をした経緯もあり、スザクは学外に部屋を借りて独り暮らしをしている。学園長はスザクの実績を認めて入学を歓待したが、それでも学園に多大な寄付金を贈る保護者の意向も無視はできず、結局、生活は別という形で折り合いがついた。「同じ屋根の下」など、言語道断らしい。そんな事の成り行きの仔細は全て、ご丁寧に、入学後に様々な形で柩木の名に反応した生徒たちから押し付けられたものだった。
 学園長を祖父に持ち、内部事情も粗方おさえているはずの高等部の生徒会長、ミレイ・アッシュフォードは、それでもスザクに一言も何も言わず、また、何もしなかった。ただひとつ、スザクを生徒会の一員として引き入れたことを除いては。
 諦めることをおぼえることが、大人になることだと思っていた。だから何も望まず、期待をせずに、ただ、当たり障りなく善良に過ごした。
 それでも、願っていたんだ。
「ルルーシュ……!」
 もう一度、夢にまで見た存在を強く抱き締めると、確かな存在感が全身に返って来た。これは、夢じゃない。
「スザク、いい加減に、俺をおまえの家に招待してくれないか?」
 笑いながらルルーシュに言われて、はっとスザクは身を放す。
「ごっ、ごめん……!」
 慌てて涙を拭いながらそう言うと、ルルーシュが至高の紫をゆったりとくつろげて、とても綺麗に微笑んだ。それに一瞬見惚れて、また慌てて靴を脱ぎ、今度こそルルーシュを自宅に招き入れる。
「へえ、兎小屋よりは広いな」
 ルルーシュがリビングを見渡して楽しそうに感想を漏らす。それにスザクは思わず苦笑する。
「君の屋敷と僕の部屋を比べられたら困るな」
 居心地は悪くないと笑いながら、ぽすりとソファに座ったルルーシュは、優雅に足を組みながら改めてスザクを、どこか呆れたように眺めた。
「それにしてもおまえは、随分とひとが変わったじゃないか。いつから”僕”なんて言うようになったんだ」
「ルルーシュこそ、随分ガサツになったんじゃない? ”俺”なんて言って」
 スザクが制服の釦を寛げながらそう返すと、ルルーシュはやや不本意そうに口を噤んで、今度は不敵に口角を持ち上げた。
「いろいろあるんだよ、俺にも」
「ふうん。……いろいろあったんだよ、僕にも」
 互いに、眼を合わせて微笑む。そしてほぼ同時に、吹き出した。
「いろいろ聴きたいな。ね、ルルーシュ、今日は泊まっていけるの?」
 スザクが上着を寝室のハンガーにかけながらそう問うと、ルルーシュがうんと伸びをしながら、もちろん、と応える。それに破願して、けれど次に続いたルルーシュの言葉にスザクは己の耳を疑った。
「泊まるもなにも、俺は今日からここに住むんだからな」
 さして(ルルーシュにとっては)広くも無い2LDKに、やけに大きくその声は響いた。
「……ええ!?」
 スザクが驚いて寝室から飛び出すと、いつの間にかルルーシュは勝手に冷蔵庫を物色している。
「なななな、なん」
「ろくな食材が無いな。スザク、ちゃんと食べてるのか?」
 ふうと悩ましげに溜め息をついて、ぱたんと冷蔵庫の扉を閉める。そのままその手は思案する風に顎にあてられる。細長い指に視線が引き寄せられた。いちいち優雅だ。
 感心してる場合じゃない。
 スザクは我に帰って、ルルーシュの先程の台詞を再検索する。
「こ、ここに住むって!?」
 ルルーシュは、きょとんと睛を丸くして、まだそんな話をしていたのかとすら言いたげにスザクを眺めた。
「ああ。よろしく」
「よろしく……って、ナナリーは!?」
「心配ない。メイドをつけて近くのマンションに部屋を取ってある。まさかナナリーに寮に入れなんて言わないよな?」
 ぶんぶんと首を振りながらも、瞬時にスザクの中でこの近辺で一番の超高級高層マンションが浮かぶ。
「る、るるーしゅもそこに住めばいいじゃないか……!」
 こんな(といってもスザクにとっては充分贅沢であるが)普通の2LDKにわざわざ住まなくとも。
 スザクが混乱を極めていると、ルルーシュの眉が不機嫌そうに寄った。
「なんだスザク、俺と住むのが嫌なのか」
「まさか!!」
 即座に反応してしまい、はっとする。満足そうにルルーシュが微笑む。
「なら問題ないな。ナナリーの部屋は家の名義で取ってある。俺はもう家の世話にはなりたくないんだ」
 それはスザクにも憶えのある衝動で、スザクは二重に衝撃を受けて、言葉を忘れる。その間にもルルーシュは、ぱたぱたと台所の戸棚を開けて、調味料やら保存食やらの確認をしている。
「俺は、家を捨ててきたからな」
 本当になんでもないことのように放たれた台詞に、瞬時に幼少の頃の記憶がフラッシュバックした。
「有言実行が、俺のモットーなんだ」
 台所の見分を終えたルルーシュが、スザクに手を差し出して、これ以上ないというほど美しい笑みを浮かべた。ぼんやりとスザクは、ほとんど条件反射の域で握手をする。
「よろしくスザク」
 天使のように繊細な造作をもちながら、悪魔のように大胆な言動を為す親友のペースに完全にのせられていることには思い至れないまま、スザクはただ、これもまた反射の域で、よろしく、と呟いた。
「で、スザク。今夜は何が食べたい?」
 小首を傾げて愛らしくルルーシュが問う。けれどすぐに、買い物に行くぞ、さっさと着替えろ、そして俺に服を貸せと次々と要求が降ってきて、再びスザクは混乱の極みに叩き落される。

 夢にまで思い描いた友人との再会は、けれどとんでもない破壊力で、スザクの日常を、ぶっ壊した。












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