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 HNを変更し「澪」改め、「天瀬澪」になりました。よろしくお願いします。ぺこり。

 現代パロ、大変長らくお待たせして本当に申し訳ありません…!(スライディング土下座)
 待っていて下さった方々にお詫びと感謝を……;;
 本当にごめんなさい、ありがとうございます……!


 現代パロ9 Author:天瀬澪


 




 嘘を吐いたわけじゃない。でも言えなかった。言わなかったことが、たくさんある。
 年月は僕らをすこしだけ賢くも狡くもさせて。
 君にはみせたくないものも、育ててしまった。
 ねえ、ごめんなんて言っても君は怒るだけかも知れないけれど。
 でも伝えたいんだ。
 もう後悔はしたくないから。




Le Petit Prince 9





 がちゃりと玄関の鍵を開ける音が響いて、スザクはぱっと顔をあげて玄関に駆けつけた。そして開いたドアから見えたルルーシュの姿に、うるっと世界を揺らす。
 スーパーの袋片手に、少しだけ気まずそうな顔をして帰って来たルルーシュは、玄関で待っていたスザクを見て、途端にふっとやわらかく微笑った。
「飼い主を待つ犬みたいだ」
 ただいまより先に出てきた言葉に、スザクはうっとそれこそ「待て」を指示された犬のように固まってしまう。何から、何を、言えばいいのかぐるぐると思考が空回りしたのも一瞬、すぐにルルーシュが、ただいま、と玄関に立ったまま小さくつぶやく。
「――おかえり。……待ってた」
 思わずほろりと一粒涙を零すとルルーシュは靴を脱いで「大袈裟なやつだな」と呆れたように言い置いて、ずんずんと中に入っていってしまう。でもスザクは、擦れ違いざま、ルルーシュの耳が真っ赤に染まっていたのを目撃してしまって、ふっとこちらもやわらかい微笑みが面に乗った。
 キッチンに消えたルルーシュを慌てて追いかけて、謝罪を口にしようとすると、冷蔵庫を開けたままルルーシュが固まっていた。
「あ、」
 スザクがしまったと思うのと同時に、ルルーシュが白い菓子箱を冷蔵庫から取り出して中身を確かめる。そしてスザクに向き直って、「モノで釣れると思うなよ」とつんと澄まし顔をしてみせる。けれどすぐに、やわらかな表情にもどって、丁寧に箱を冷蔵庫に戻して、そのまま、昨日はすまなかったと、凛とした潔い声を響かせた。
「えっ、いや、その、僕の方こそ、ごめん……!」
 冷蔵庫の中の白い箱の中には、ルルーシュのお気に入りのお菓子屋さんのプリンが二つ。ふるふるとなめらかであまい、でも少しだけ苦い、やさしい色をした。
「ゆうべは……少し、気が立っていて……。――余計なことを、言ったと、思っている」
 冷蔵庫に向かって大真面目に話しているルルーシュを、スザクは頓狂にもかわいいと思ってしまって、かーっと顔を上気させる。
「そのっ……! ぼ、ぼくこそ、急に……えっと、だ、抱きついたりして……じゃなくて……変に詮索したりして……」
 ルルーシュが帰ってきたら言おうと思って散々脳内シミュレーションしていたことはあっさりとスザクの脳から飛んで行ってしまって、しどろもどろになりながら、伝えるべきことを探して思考も視線もうろうろとする。
 そうこうしている間に、ルルーシュはスーパーの袋からがさりと紙袋を取り出して、ずいっとスザクの胸に押しつけた。
「できるまで、しばらくかかるから、とりあえずこれでも食べて待ってろ」
 そっぽを向いているルルーシュは、けれどやっぱり耳まで真っ赤で、スザクも一緒に赤くなってしまう。
 何をしてるんだ僕たちは。
 さっきから落ち着かない鼓動と顔色をたしなめるようにこくこくと頷いて、正直に袋を持ってリビングのソファにぽすりと沈んだ。料理を手伝うと、細やかな性格のルルーシュにとっては余計に手間を取らせるだけだと最初の一回で気づいたので、今は食器洗い担当と割り切っている。
 そして改めて手渡された袋の中身を確かめると、ころころと詰め込まれたカップケーキ。ふわんとあまい香りを漂わせるそれは、もふもふふわっとやわらかいルルーシュ手作りの。
 スザクはきゅう、と途端に空腹を主張した胃に苦笑しながら、ひとつだけそれを手にとって齧って、帰ってきてくれて良かったと、ちいさな幸福をじんわりと噛みしめた。




 ナイフを入れると、じゅわりと肉汁が染み出して、薫り豊かなデミグラスソースとまじりあう。しっかりとソースに絡めてひとくち食めば、スザクの大好きな、ハンバーグの味が舌の上でとろける。
「――っ……」
 声も出せずにふるふると感動していると、目の前でルルーシュがふっと笑った。
「声も出ないほど美味いか?」
「うん、うんっ! すっっっごく、美味しい!」
 今すぐお嫁に貰いたいぐらいだよ! という素直な感想はぐっと理性で押し込めて、スザクははふはふと炊きたてのごはんも口に入れて、また感動する。
「どうしてルルーシュが炊くと、同じお米なのにこんなに美味しいんだろう!」
「ふっ。もっと褒めてもいいぞ」
 ルルーシュが得意げににやりとわらって、満足気にハンバーグを口に運んで、納得したように頷いた。きっと心中で自画自賛しているのだろう。そんなルルーシュもかわいいなと思って、さすがにスザクは浮かれている自分の思考を落ちつけようと、食事に専念した。
 ハンバーグに添えられているマッシュポテトはなめらかに舌の上でやさしい塩味とほんのわずかな酸味の余韻を残しながら溶ける。ころころと鮮やかなにんじんのグラッセは、にんじんのあまさを損なわない、まろやかな味でこれも絶品だった。
 コンソメスープもサラダも綺麗に平らげて、スザクはほわっとため息をつく。
「美味しかった……」
 まだ食べ終わっていないルルーシュが、おかわりもあるぞと言うのにスザクは首を振った。もう胸もお腹もいっぱいだった。そして、今度こそ落ち着いた思考回路で、ちゃんと話すなら今しかない、と決意する。
「その、ルルーシュ……昨日は、ほんとに、ごめん」
 かちり、とルルーシュのナイフが皿にあたる音が響いた。
「……それは、なんに対する謝罪だ?」
「えっ……、えっと、まず、君の都合や気持ちを考えずに、僕の気持ちを押しつけた……こと」
「……どんな気持ちを押しつけたと思ってるんだ」
「ええっ……! うわ、あの、えっと……き、君のことを、知りたいっていう……」
 しょぼしょぼと尻つぼみになっていくスザクの言葉を、じっとルルーシュは見つめている。背はしゃんと伸びて、睛は凛と澄んでいて、とても嘘や誤魔化しで切り抜けていい場面ではないのだと、スザクは思う。そして、大きく息を吸って、きゅっと呼吸を止めた。心臓がどっどっと大きく跳ねてうるさかった。
「君のこと、独占したい、って思ってた。その気持ちを、抑えられなくて……。ねえ、僕は、君のことが好きなんだ」
 至極真面目な貌で、最後の一口を優雅に口に運んで、咀嚼しながらルルーシュはじっとテーブルの二人の中間あたりを見つめている。もう、口から心臓が飛び出んばかりの鼓動にスザクがひとり手に汗を握っていると、ふと、ルルーシュが呟いた。
「俺だってスザクのことは好きだが――。独占されるわけにはいかないな」
 すき? すきって言った??
 スザクはぽかっと思わず口を開けてルルーシュをまじまじと見つめてしまう。ルルーシュは至って真面目な顔でスザクを見返して、ナイフを握ったままの右手で頬杖をついた。
「俺も昨日は、関係のないことを持ち出して失礼なことを言ったと思ってる。すまない。だがまあ、おまえには慰めてくれる相手がたくさんいそうだと思っていることは事実だし、俺だって根も葉もない噂を聴いただけであんなことを言ったわけではない」
 すき、の衝撃でうまく言葉が頭に入ってこないスザクは、ようやくどうやら風向きがけしてスザクにとってハッピーな方向に向いていないのではないかと感じとった。しかし時すでに遅し。ルルーシュは、ナイフをぴっとスザクの方に向けて、にっこりと小悪魔のように微笑んだ。
「俺のアルバイトは、ある人物の『愛人』を務めることなんだ」



「……はあ!?」
 たっぷりスザクが数分間思考停止している間に、ルルーシュはさっさと食器を下げにキッチンに消えてしまい、スザクが間の抜けた叫びをあげた時には、お気に入りのプリンを、満面の笑みで頬張っていた。



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澤村です!
星の王子様、第8話できましたっ!遅くなってすいません…。
私生活がすごいバタバタ…していました…(現在進行形)。はあはあ(息切れ)年どころか日を追うごとに遅筆に磨きがかかってくるミステリー。

5/31追記
書き上げたのに非公開にしっぱなしでした…。有言実行のつもりが有言不実行とは…すみません!!

本文は続きからどうぞ!

現代パロ7 Author:澪
長く間が空いてしまって本当にごめんなさい;
ゆつきさん、原稿がんばって!><






 ただいまって言っておかえりって言われる。
 ただそれだけのことがどうしようもなく幸せで、突然与えられたそれは簡単にからっぽだったコップをあふれさせて、もう、それしか見えなくなってしまって。
 だから忘れていたんだ。優しくて幸せなものは、とても繊細なバランスの上に成り立っているものだって。




 
Le Petit Prince 7






 玄関を開けて、真っ暗な室内に落胆をおぼえたことにスザクは苦笑した。ルルーシュだっていつもいつも帰りを待っててくれるわけじゃない。当たり前のことなのに、今まで当たり前のようにずっとスザクを迎えてくれていたから、あまりにもそれが身に馴染んでしまって、忘れていた。真っ暗な部屋に帰ってくる、この心の重い感じを。
 パチリパチリと電気をひとつずつつけながらリビングに入って、机の上のメモを見つける。
 『今夜は遅くなるかも知れないから、夕飯は冷蔵庫のものを温めて、先に休んでてくれ』
 急いで書いたのだろうか、いつも端正に整っているルルーシュの文字が少しだけ慌てていた。
「どこ行ったんだろ……」
 ぽつりと独り言を漏らして、スザクはちょっとぼんやりとそのメモを見詰めた。
 最近のルルーシュは、なにかと裏でこそこそとしている気がする。部屋では夜遅くまで何かをしているようだけれど、声をかけると勉強だと言い張る。授業では器用に居眠りをしているし、サボることも多い。学内ですぐにどこかに消えてしまうルルーシュを見つけると、大抵電話で誰かと話しているがスザクを認識するとすぐに通話を終える。事務的な礼儀正しい声のときもあれば、苛立ちを抑えているような声のときもある。
 姿を隠したままで、通話を盗み聴きしてしまいたい衝動に駆られることもあるけれど、そこは最低限のプライドと礼儀を守っている。
 ルルーシュが自分から話してくれるのを待っている。
 けれど今日この不在。行き先も告げずに。
「絶対におかしい」
 すべてを包み隠さず話してほしいわけじゃない。話せないことも話したくないこともあるだろう。自分にだって、ルルーシュには聞かせたくないことが山ほどある。
 でも、じゃあ、なんだろうこの心の重苦しさは。
 スザクは少し右上がりのクセのある、ルルーシュの書き残しを撫でて溜息をついた。




 日付もすっかり変わってしまった夜半、玄関を開けてルルーシュはギクリと身を固くした。目の前にスザクが立っていた。
「おかえり、ルルーシュ。ほんとに遅かったね」
「……っ、た、ただいま……」
 反射でそう言ったはいいけれども、道を譲るでもないスザクにルルーシュは困惑する。スザクの声はひどく穏やかだったけれども、無表情だ。スザクのこんな貌は見たことがない。子どもの頃はころころとよく笑って怒っていたし、再会してからはふにゃふにゃとやたらと人当たりのいい笑顔を浮かべてばかりだったスザクが。
 無表情。
 その得体の知れない怖ろしさをひやりと感じつつもルルーシュが微笑むと、スザクの眉がぴくりと揺れた。
「先に寝てろって言ったのに。待ってたのか? 心配性だな」
 退く気配のないスザクの脇をすり抜けようとしたら、痛みを覚えるほどの強さで腕を掴まれてまたぎょっとする。
「香水のにおいがする。女性物だよね」
 ルルーシュは舌打ちしたくなるのを堪えて、ふうん、と小首を傾げた。
「女物だとわかるのか。随分と鼻が肥えているじゃないか」
「それにその格好。どこ行ってたの? お酒のにおいもするけど」
 綺麗に嫌味をかわしたスザクに、無視かとルルーシュが眉を顰めると腕に更に力がこもった。
「つ……っ、ただの食事会だ……! フレンチだったから、正装なんだよ。それより、離せ、痛い」
「ああ、ごめん。でも、誰との食事会か言ってくれるまで離さない」
「はあ?」
 ルルーシュはぽかんと口を開けてちょっとスザクを見詰めてしまった。
「答える必要性を認めない」
 ルルーシュが凛と静かにそう告げたことで、スザクの中でぱちりと何かがはまった。
 そうだ、これは、独占欲だ。
 とても、重くて、苦しい。
 腕を掴む力が緩んでしまって、機を得たりとするりとルルーシュは逃げていってしまう。それにスザクは胸が引き絞られるような焦燥感を覚えて、気がつけば背中からルルーシュを抱き締めていた。
「スザク!?」
 首筋に鼻をうずめて、甘い香りを吸い込む。こんなにおいなんて。
「ほんとは何処で誰と何をしてたの」
 胸の中に苦い自己嫌悪がじわじわとひろがっていくのを自覚しながら、それでも言わずにいられなかった。
「スザク……! どうしたんだ、この間からおかしいぞ。迷惑じゃないとは言ったが、俺にだってプライベートがある!」
 腕の中でもがくルルーシュをさらに強く抱き締める。
「君は僕に何も言ってくれない!」
「おまえは何も訊かなかっただろう!」
「今訊いてる!」
「何処で誰と何をしてたか!? アルバイトだ! 守秘義務があるからこれ以上は言えない。家を捨ててきたからには稼ぐ必要があるだろう! これで満足か!?」
「こんな香水のにおいをさせて、どんなアルバイト!? なにか危ないことしてない!?」
「危ないことってなんだ。俺はおまえと違ってとっかえひっかえ女を泣かせたり、そういう危ない橋は渡っていないが」
 叩きつけられた言葉に、拘束がゆるんだ。今度こそルルーシュはさっとスザクから距離を取って、高慢に眼を眇めて冷笑した。
「随分お盛んだったようだな。俺に遠慮しなくていいんだぞ? 好きに遊んで来ればいい」
「違う! 今は、」
 言葉はバタリとドアを閉める音に遮られた。閉ざされたルルーシュの部屋の前でスザクは立ち尽くす。知られてる。軽蔑された。確かにそんな時期もあったけれど、泣かせたりはしなかった。どんなに悔やんでも過去の自分は消せない。噂にどんな尾ひれがついているのか、考えたくもなかった。
 最低のこじれ方だ。もっと穏やかに問えば、ルルーシュももっと何かを話してくれたかもしれないのに。できなかった。ルルーシュのことになると、どうしてもうまくバランスがとれなくなってしまう。
 スザクはそっと、ルルーシュの部屋のドアに手を触れる。
「今は……」
 囁きは誰にも届かずに部屋に霧散する。

 好きなんだ。
 君だけが。
 こんなにも。





6話目です!時間あいてしまって申し訳ない!ぜぇぜぇ!
やっと物語が動き始めました!

追記
下で言っていたイラスト集、2冊とも昨日ゲットできました!案の定舞い踊りました(笑)澪さんに電話までかけるほどテンション上がった(笑)
でも見てるだけで色々思い出して泣ける…(;;) 以下ネタバレ?を含むので反転
小説は公式でやってくれるだろうと思っていた空白期間!ピクドラとかでもやってくれないかな~!!


Author:澤村ゆつき




現代パロ5 Author:澪







 アッシュフォードでは、生徒は皆どこかのクラブに所属するのが決まりだと告げると、ルルーシュは少し考えて、あまり時間が取られるのは困るな、と僅かに首を傾けた。どうして、と問えば、にこりと華やかな笑顔を添えて、言ったろ、いろいろあるって、とぴしゃりとそこでシャットアウト。スザクが納得のいかない歯痒さを感じながらも、いろいろ見て回るといいよ、とだけ返すと、ルルーシュはそうだなと、小悪魔のような笑みを浮かべた。
 一体何を企んでいるのやら。




 Le Petit Prince 5




 ルルーシュは順応が早い。スザクは今、にこやかに会話をこなすルルーシュを眺めて、心の底から感心していた。ルルーシュは転入僅か一週間にして学年のほとんどの生徒の顔と名前を憶え、速やかにアッシュフォードの「文化」に馴染んだ。転入初日の騒動による周囲の浮ついた興味関心さえも上手に受け入れ受け流して、ごく落ち着いた円滑な対人関係を既に築き始めている。
 でもすごく表面的だ。
「でね、今、副会長のポストが空いてるの」
 緩やかにウェーブしたブロンドが大仰な身振りにあわせてしゃんと揺れる。とうとう掴まった。昼休みの屋上で、食べかけで放置されている弁当を眺めてスザクは、残り少なくなっていく休み時間を恨んだ。いやむしろ、ミレイ・アッシュフォードを恨めしく思っていた。
「へえ、そうなんですか。それじゃあ何かと大変でしょうね」
「そうなのよお~。わかるでしょ?」
 ルルーシュの丁寧な受け答えにうんうんと大きく頷くミレイの背後で、クラスメイトかつ生徒会メンバーの一人であるリヴァルが、スザクに向けて手で謝罪を示す。それには曖昧な笑顔で応えてやったが、裏切ったな、という一言はちゃんとスザクの内側で燻っている。
 絶対食いつくと思ったんだ。
 はあ、と溜め息を零してスザクは、ルルーシュとミレイの会話をただ見守っていた。互いに非常ににこやかであるけれども、にこやかである分不気味な攻防戦が目の前で繰り広げられている。
「胸中お察しします。頑張って下さいね」
 鉄壁の微笑でルルーシュが会話を畳もうとしているのに気付き、ミレイがにやりと笑った。
 何かと騒ぎが好きな生徒会長だ。絶対にルルーシュのもとに突撃してきて、またとんでもない企画を叩き落すだろうと踏んでスザクは一週間、さりげなく学園内を逃げ回った。でもそれも泳がされていただけかと、いつも一枚も二枚も上手のミレイを眺めて嫌な予感が駆け抜ける。
「うん、ルルーシュ、あなたも一緒にね!」
 昼休み、スザクとルルーシュの前に颯爽と現れたミレイの第一声は「ルルーシュ・ランペルージ! あなたを生徒会の一員として任命します!」だった。ルルーシュは至極落ち着いて、そんな俺なんかが恐れ多いと丁重に、殊勝ささえうかがわせて辞退したが、それで退くミレイではない。スザクも最初の10分はなんとかルルーシュの援護射撃を頑張ったが、あえなく言葉が尽きて、この10分はただの観客になっていた。ルルーシュの日本語能力に舌を巻く。予鈴まで後5分だ。
「ははっ、会長、本当に面白い方ですね。何度も言ってますが、俺なんかが入ったら、逆に足手まといですよ。それに、いきなり副会長だなんて、そんな馬鹿な。大体、そういうのは、選挙で選ばれるものでしょう?」
 さっきから、転入して間もないからと散々言葉を変えてのらりくらりとミレイをかわしているルルーシュだが、ミレイは本気だ。そして切り札を持っている顔をしている。スザクは心の中で十字を切った。
「ふふーん、残念ながら、生徒会長には指名権があるのよね~」
「じゃあ、もっと適切な人材を探すべきですね、学園のために。――それじゃあ、もうすぐ予鈴も鳴るので」
「ふうーん……残念だなあ~。ナナリーは快くお手伝いしてくれるって言ってくれたのに」
「なっ!?」
 スザクは目を閉じた。諦めてぱたりと弁当箱の蓋を閉める。かくして、予鈴がなるのと同時に、ルルーシュはアッシュフォード学園高等部生徒会副会長となったのだった。
「ありがとうルルーシュ! 絶対、ルルーシュなら手伝ってくれるって思ってた! じゃあ早速、今日の放課後、待ってるから。――そして、スザぁク!!」
 いきなりミレイにびしぃっと指名されてスザクは思わず姿勢を正す。
「剣道部が忙しいのはわかるけど、たまには生徒会にも顔を出しなさいっ! 風紀委員の仕事だけしてりゃいいってもんじゃないのよっ! あなたも今日の放課後は生徒会に顔を出すこと! ミーティングだけでいいから、ちゃんと発言して責務を全うしなさい!」
「はいっ!」
 思わず敬礼しそうになってしまった。変な条件反射が付きそうだとスザクは苦笑して、また颯爽と去っていくミレイの後姿を脱力して眺めた。横でルルーシュが肩を震わせているのに気付かずに。
「くっ、」
「ルルーシュ、僕らも行」
「屈辱だっ!!」
 かっと噴火したルルーシュに、スザクが反射でごめんと叫ぶと、ルルーシュがきっとスザクを睨んだ。
「何故おまえが謝る! 何がごめんなのか言ってみろ!」
「えっ! いや、その、何って、えっと、何だろう!?」
 ルルーシュがにっこりと愛らしく微笑んだ。スザクの背筋が冷える。
「この、」
 ああ、嵐の次は、
「馬鹿スザァクッ!!」
 雷だ。
「大体おまえ、俺より日本語が乏しくてどうする!? そんなことでこの先社会の荒波に耐えられると思ってるのか!? それに簡単に謝るな! 何でも謝っとけば済むと思ったら大間違いだぞ! おまえのその卑屈な性根を根本から叩き直してやる!」
「わあーっ!! る、ルルーシュ! わかった! わかったからもう授業に行かないと!」
「授業!? 何行ってるんだ昼食もまだ途中だろう!」
「え、えええっ!?」
 虚しく本鈴が響き午後の授業の始まりが告げられる中、ルルーシュは悠然と腕を組み、当然の真理を諭すようにスザクに告げた。
「言っただろう、食は生命活動の基本中の基本だ。大体おまえ、この俺が作った弁当を、残して捨てるつもりか?」
「ええっそんなまさか! いやでも授業も大事で、えっととにかく、サボるのはまずいんだよ!」
「どうしてまずいんだ、アッシュフォードは単位制だろう。単位に必要な出席点と成績が取れれば何の問題もないはずだ」
「ええっ!? そう言われればそんな気もするけど、いやでも、」
「どうして授業をサボったらいけないのか、この俺にも、わかりやすく、説明してくれないか? 言っとくが、サボったらいけないことになっているなんて言ってみろ。今後一切おまえにおかえりは言ってやらんからな!」
 あまりのことに、スザクはぽかんと口を開けてしまった。そして顔が勝手に全開の笑顔になってしまうのを止められなかった。
「何をにやついている! って、おい、スザク!?」
 衝動的に抱き締めると、ルルーシュが苦しそうに身を捩った。この馬鹿力が! という罵声も今は天使の囁きだ。
 スポーツ特待生であるスザクにとって、この学園生活での最優先事項は部活だ。ルルーシュの転入初日には舞い上がって休みを貰ってしまったが、副主将という立場上、おいそれと休むわけにはいかない。不慣れなルルーシュを一人で帰すことにも、家に一人にすることにも不安はあったけれど、当の本人が一人で大丈夫だとしらっと言って無事に帰宅もしていたので、ルルーシュがスザクの帰りを待つという生活パターンが既にできていた。
 スザクは今でもあの感動を忘れない。へとへとに疲れ果ててとっぷりと夏の日も暮れた頃に帰宅した瞬間に、「おかえり」とルルーシュに出迎えられたあの喜びを。
 その場でぶわっと泣き出したスザクが、君におかえりって言われるのが幸せで、と言った一言を、ルルーシュはしっかりと憶えているのだ。そしてそれが、いかにスザクにとって、価値のあるものであるかも。
「ルルーシュ! 大好きだ!!」
「はああ!? なんでそうなる!?」
 この馬鹿スザク! と、もういちど落ちた雷は、けれどスザクにとっては、ただただやわらかいばかりの、ふんわりと優しい羽毛だった。









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